事の顛末

淡く憧れ続けてきた土地がある。そう、金沢です。

金沢を意識し始めたのは、高校時代、何をきっかけか思い出せませんが、「金沢の図書館で本を読みたい」と思い立って以来のこと。それも、秋に金沢の街を散策したい、と季節まで限定していました。

金沢の大学に通って、喫茶店とか探しているうちにお気に入りの図書館を見つけて、窓辺で本を読んで、夕暮れになったら暗くなる前に家に帰るの――。外の並木は紅葉していて、銀杏の葉が歩道に所狭しと散っていて――。私は三つ編みで、ダッフルコートを着て、フェルトのロングスカートにぺたんこのブーツを履いて、落ち葉を踏みしめながら本を片手に家路を急ぐの――。

というようなことをツラツラと母に語ったら「夢を壊さないように、金沢には行かないほうがいいとお母さんは思うワ」と返されたのでした。ごもっとも。実は何か具体的な写真を見たわけでも、実在の図書館を知っているわけでもなく、私にとって金沢とは、陸奥A子みたいな乙女系少女漫画の一場面や、実際に自分が見たことがあって気に入っている仙台の街並みの部分部分を組み合わせた架空の街だったのでした。金沢という語感や漢字も大好きで、「仙台みたい。いい街の名前だわ…」とか勝手に思っていたわけで。

私のイメージはあくまで、私ではない、私が知らない少女が、風情のある、緑あふれるけれど冬が寒い街で、微笑みたたえて穏やかに暮らしているイメージであって、実際私がその街に暮らしたり日常生活を送って喜怒哀楽を感じてしまっては、私が想像しているものとは全く違った街になってしまうような気がしたのです。

そんなわけで。
私にとって、金沢は淡く憧れているけれど行ったことはなく、そして行ってはいけないような気がする街となったのでした。吉祥寺や阿佐ヶ谷、上北沢、長崎、京都といった街を訪れては「まるで仙台のような、いや金沢のような街だな」と思ったりする癖に、金沢には行ったことがないという摩訶不思議。

でも、こんなん私だけかと思っていたら違いました。

なんと今年9月、『乙女の金沢』という書籍が発売されたのです。書店で発見して「こ…これはっっ!」と思って思わず手にとって頁をめくってみたら……ぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!なんだか私が抱いてたイメージとよく似た街が本のなかに広がっているじゃありませんかっ。これで並木と図書館があれば、完璧なんだけど!!!!冒頭の1行目で「乙女は京都に恋し、金沢に憧れます」と断言してるし…。あ…あたしのこと??!

……行ってもいいのかもしれない……金沢。

もう10月。きっと日本海側の街はもう秋まっただなかだろう。嗚呼、冬が来る。その前に行ってみたい。そして冬、雪に埋もれる金沢にも行ってみたい。すてき、すてき、すてき…。

この前も日記に書きましたが、またもアルバイトさん受難話です。

まあいろいろありましたが前アルバイトさんを笑顔で送り出した、その日。朝、次のアルバイトさんが引き継ぎのため初出社されました。現れた引継ぎのアルバイトさんを前に、一瞬どよどよっと戸惑いの空気が流れる職場。引継ぎのアルバイトさんがくることについて一人(上司のシモベと公認されている女子社員)をのぞいて誰も知らない状態だったのでした…。「ぇー?!新しいアルバイトさん?!」という感じでみんな驚いたのですが、徹底して連絡をしないことで定評のある上司ですので、まあいつものことといえばいつものこと。私はしらーっとした気分になるだけで済んだのですが、隣の課長は「もうアルバイトはとらない」と聞いていたとのことで、連絡ないわ嘘つかれたわで二重の驚きに打ちのめされていたようです。

さて。
職場の人たちに驚きや戸惑いをもって迎えられたうえに、採用した当の上司は出社するのかしないのか連絡もない状態。「これでは引継ぎの方も、さぞ不安なことでしょうなあ」ということで、隣の課長も交え急遽ランチにて簡単な歓迎会を開いたのでした。前のアルバイトさんをフォローし切れなかった分、今度のアルバイトさんには早め早めにフォローしてあげよう…と同僚たちと意気込みを語り合っていたので、急遽開いた割には集まりもよく和やかにランチタイムは過ぎていったのでした。その日の夜、前アルバイトさんの送別会でも同僚たちと「とりあえず初日はそれなりにフォローできたね」と言い合ったのでした。

が。

「天性の悪意」はそんなに甘くなかった…。その日、15時に出社した上司は引継ぎのアルバイトさんに、こう言い放ったのでした。

「そういう無愛想な顔してると、誰も声かけてくれなくなるよ?」

……因みに、引継ぎのアルバイトさんは緊張はしていたけれど仏頂面でも無愛想でもありませんでした。つか、無愛想だと思うなら採用するなっつー話で。面接で何を見ていたのか。まあそんなことよりも何よりも、一番問題だったのは。


初出社その日1日で、引継ぎの方が辞めちゃったことですな!


金曜日に初出社して、翌月曜日には来ませんでした〜。あはは(乾)。前述の台詞にいたく傷ついていたという話ですし、まあ色々とそのほかの点でも不安を覚えたのでしょう。その不安は大いに当たっているので、とやかくは言うまい。でも、アルバイトさんといっても派遣会社が軽く噛んでるし、統括してるのは総務だし、月曜日、職場はちょっと異様な雰囲気に包まれたのでした…。

上司が出社してきたのは、15時。辞めてしまった引継ぎのアルバイトさんが退社したのは17時半。たった2時間半の間に、数々の人間の警戒の目をくぐり抜けてシッカリ暴言を吐くとは…。「天性の悪意」というものは、常に我々の予想の遥か上を行くようです。周囲の人間が甘いのか、「天性の悪意」が凄すぎるのか。いずれにせよ「天性の悪意」との付き合いは、なかなか簡単にいくものではないということですかね…。