そもそもの定義

昔ながらの生活を大切にしながら新たな風を取り入れよう、という精神。簡単にいえば「温故知新」。


これを標榜してきた雑誌やヒトは数多あれど、そのジャンルに革新的な風を吹かせたのはマガジンハウスの『ku:nel』であることは、誰もが認めるんじゃないでしょうか。古臭くて、なんか気持ちは賛同できるんだが、どうも野暮ったくてちょっと頭でっかちな定年後の老夫婦が試みる生活というイメージがあった“昔ながらの生活”。それを「優しく、ゆったり、飾らず、自然に」というイメージで、さも「人目を気にせず自分らしい生活」風に、白とベージュと緑でカラーリングしただけで、ここまでオシャレに見せた編集者万歳。また、エディトリアル・デザインの奥深さに、創刊当時は唸らされたものです。


個人的には、白洲次郎&正子夫妻が早期隠居(?)してつくった「武相荘」の存在が、『ku:nel』の根本にはあると思うんです。ハイソでハイセンスでクールで尖ってた「武相荘」を、より自分に優しく、ハードルを低くし、庶民的にしたのが『ku:nel』の世界なのかな、と。


でも『ku:nel』によって庶民でも参加できるようなオシャレ生活を提示された分、オシャレ生活への参戦を促す世の空気が強迫的になった気がします。“オシャレな貧乏”という新たなジャンルが発生したというか。『ku:nel』以前は、ある一定の値段がする家具やインテリアを買わないと、どうしても“オシャレな空気感”ってものは醸しにくかったように思うし、「昭和ダッセー!」みたいな雰囲気があったように思うのですが、ある作法のもとに極めれば、昭和風味ですらオシャレに演出できるという魔法。美大生なんか、こぞって参戦してそうですよね、『ku:nel』的オシャレ生活に。


で、その『ku:nel』を経て、次に提示された魔法(オシャレ演出)が、「エコ」という概念なのではないかと私は思うわけであります。『ku:nel』自体がそもそもエコを根本に据えているわけでありますが、最近の「エコ」はそっから飛び出して先鋭化してるように感じます。『ソトコト』だとか『ku:nel』だとか、「何かオシャレ〜」みたいな雑誌でしか扱われていなかったエコが、最近は省エネと結びついて家電CMでエコエコ連呼されるようになり、ついには『サンキュ!』のような主婦雑誌にすらエコがはびこり始めましたよね。そう「エコ」=「節約」、みたいな言葉の使われ方になってきたのです。節約という言葉は「≒ケチ」みたいな野暮ったいネガ・イメージだったのが、エコと置き換えれば、あら不思議、何だか社会貢献すらしているようなポジ・イメージ!「オシャレ」と「節約」の奇跡のコラボ!!


私も、家電メーカー勤務とか主婦雑誌編集者だったら、確かに「エコ≒節約」運動に真っ先に加わってたと思います。素晴らしい商魂。商売に携わる人間として尊敬します。ははは。


でも、本来のエコと概念がかけ離れてきているように感じるので、個人的に、本来のエコは「エコ」と表記し、節約的エコは「エコ(笑)」と表記することにしたのでした。「エコ(笑)」ブーム、これからどこまで続くのでしょうか。その動向に期待です。